ソフトウェア開発会社F社は、主力ソフトウェアの営業活動が実り、国内外で存在感を示すグローバル・メーカーでの採用が決まりました。今後のビジネスにも大きな弾みがつきそうなよい流れです。
そこで、さっそく導入事例の制作を打診したところ、メーカー社内での評判も良いことから、こころよく企画を受け入れてもらえました。一流企業に登場してもらえるせっかくのチャンスですから、事例制作をいままで任せていた印刷会社に代えて、大手企業の導入事例が得意だという制作会社に依頼することを決めました。
CIOがインタビューに急遽参加…
取材当日の出席者は現場担当者の2名のみでしたが、そもそも現場向けのソリューションであり、まったく問題はありませんでした。インタビューは順調に進み、原稿作成に必要な情報を漏れなく聞き出すことができました。
そんな中、取材半ばに突然ドアがノックされ、CIOがインタビューに急遽出席してくれることになりました。別の会議で同じフロアにいたCIOが、たまたま会議が早く終わったため、ぜひ話をしたいということでした。当初の予定には入っていませんでしたが、経営層から見た製品の価値を語ってもらうことができれば、より説得力と深みのある原稿になることが期待できるため、取材側としては大歓迎です。
経営戦略やIT戦略について、熱心に語ってもらえたが…
急遽、残りの時間をCIOへのインタビューに切り替えることになりました。まず、本日の取材の趣旨を説明し、その上で、今後のIT戦略と、経営層の立場から今回の製品についての期待について語っていただくことになりました。
CIOは、同社のグローバル戦略と、それをいかにITで支援していくのかといった展望を熱く語ってくれましたが、取材時間が限られていたこともあり、製品に対する期待についてはほとんど触れてもらえませんでした。とはいえ、製品の魅力については、取材の前半で現場担当者に詳しく聞くことができたので、その内容と組み合わせることで内容の濃い原稿に仕上がりそうでした。
しかし、上がってきた原稿のチェックを依頼したところ、CIOの発言部分が少なすぎるという指摘を受けました。せっかくCIOに時間をとってもらったのだから、担当者の話した内容を削ってでも、CIOの話を中心に構成してほしいということでした。
とはいえ、CIOの話した内容は、同社の経営戦略やIT戦略に関するものであり、導入事例の原稿と直接関係はありません。事例記事の「導入の背景」として数行程度しか入れられないと回答したところ、結局、事例制作は見送らざるを得ないという結論になってしまいました。
【今回の教訓】
導入事例の制作では、事前に取材意図を明確に伝えておくことが大切です。今回はCIOが途中からインタビューに参加したことで、質問の方向が大きく変わってしまったことが問題でした。
このケースの失敗は、原稿はあくまでもインタビューシートに沿った内容で作成するという点と、CIOの話はあくまでも背景情報として参考にしたいという点を伝えることで防げたでしょう。
制作会社の実績を確認し、事例ごとに構成内容が大きく異なっているようなら、取材現場での対応力に問題がある場合があります。その際は理由を確認してみてください。